精神科医が肩肘張らずにブログを書いてみた

精神科が多くの人に関心をもってもらえますように。

高齢者の万引きは「孤独」「困窮」が原因でいいのか? ~性格変化をする認知症の存在~

今回は、少し社会的な発信を。

 

高齢者の万引きが、メディアによく取り上げられるようになってきました。しかし、それらをみていると「孤独」「困窮」などと結びつけているものも多く見受けられます。

 

この仕事をしていると、確かに高齢者の「孤独」「困窮」も社会的な問題と感じるのですが、高齢者の万引きに関していえば、もうひとつ考えなくてはいけない大きなことがあります。

 

記憶力にはほとんど影響がなく、性格や行動の変化から発症をしていく認知症があることをご存知でしょうか?

 

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認知症は、脳の病的な機能低下により起こる問題です。

認知症に占める割合が大きいアルツハイマー認知症において「新しい事を覚えにくくなる」という症状が初期から出やすいため、世間一般に「認知症」と「記憶力」は対となって覚えられている印象を受けます。

 

 しかし、記憶力にはほとんど変化を起こさない認知症も存在します。そのなかのひとつに「前頭側頭型認知症」というものがあります。

これはその名の通り、脳の前頭葉、側頭葉を中心に機能低下が進行していきます。

そして、この前頭葉という場所は「社会脳」と呼ばれており、本能とは別の部分での善悪の判断などを司る機能を担っています。

 

前頭葉の機能が低下すると「これ、欲しいなぁ」と思ったときに、それを抑制する力が小さくなってしまう事があるのです。

ところが、認知症として多くの人がイメージをする記憶力障害が初期にほぼ出ないため、このような認知症があるという知識がないと、ほぼ見逃されます。重大犯罪をしてしまい刑期を終えたのちに、私の勤めていた医療機関につながり、この認知症が発症していたのだろうと診断したケースもありました。

 

前頭側頭型認知症認知症のおよそ1割程度と言われています。(個人的にもう少し多いのでは、とも感じています。)

 

残念ながら、今のところ根本的な治療法はありませんが、症状、行動障害に対する薬剤の効果についてはある程度報告が出てきています。また、家族や介護をするスタッフ、そしてもっと広く社会がこの認知症を理解していくことで、対処法を考えていくことがある程度可能になっていくと考えています。

 

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記憶力は変わらず、性格や行動に変化を起こす認知症が存在をする。そして、それは決して珍しいものではない。このことを、もっと社会全体に広く知ってもらいたいというのが、今回の記事の趣旨でした。